アフタヌーンで連載されていた、漆原友紀による蟲師の英語版コミックです。全10巻。また 蟲師の北米版アニメDVD もあります。
この作品は独特の世界感をもっていて、とても不思議な、そしていてノスタルジックな気持ちにさせられますね。作者いわくイメージは、「鎖国を続けた日本」、もしくは「江戸期と明治期の間にある架空の時代」だそうで、ありそうでありえなかった、それでいて日本人の心に訴えかける架空の世界を作り出しています。
いわゆる怪異を扱ったものでありながらこの作品に登場する “蟲” は、積極的に人に害を為す妖怪や怪物とは違って、それ自体には人間的な思考というものは感じられず、単細胞生物のように原始的な本能に従って行動しています。ギンコが捕まえようとすると逃げようとしたり、養分を得るために人にとりついたりするので、生存本能や食欲などの基本的な欲求はあるようですが、それ以上の目的みたいなものは持ち合わせていません。蟲の通り道である光脈というのはおそらく陰陽道や風水でいうところの龍穴や龍脈のようなものだと思いますが、そういう点から蟲の存在は日本的というより大陸的な感じがします。別の言い方をすると民俗学的というより哲学的な感じですね。昔話のように子供に教訓や生活の知恵を与えるという感じではなく、大人がじっくりと考えさせられるような感じです。
現代に生きる我々がこの作品に不思議なノスタルジィを感じるのは、単純に昔の風景を描くという時代設定の問題ではなく、「ありえるはずだった現在」についての想像をかきたてられるからではないでしょうか。