LaLa DX および LaLa にて連載中の、緑川ゆきによる夏目友人帳の英語版コミックです。
夏目友人帳 Natsume’s Book of Friends 英語版コミック
日本の妖怪といえば民俗学と切っても切り離せない関係にありますが、漫画という創作の世界では、作者の思い描く世界観からより自由な発想でさまざまな妖怪が生み出されています。伝承の中の妖怪達にも、もともとは昔の人々が退屈しのぎに想像の翼を広げて生み出したものも少なからずいるのかも知れません。恐怖や畏怖の対象としての妖怪の中に、妙に滑稽な妖怪がいるのはそのためでは無いでしょうか。
この作品に登場する妖(あやかし)たちも、妙に人間臭いというか、愛嬌のある存在として描かれています。特に主役である貴志と、その用心棒であるニャンコ先生が強すぎるためか、怖いという感情がちっとも沸いてきませんね。主人公の貴志が恐れているのは妖ではなく、人間関係の破綻です。「変わった子供」として孤独な幼少期を送ってきた貴志は、人間と信頼関係を上手く築く事ができません。相手に拒絶されるのでは無いかという恐怖が、自分の気持ちを素直に表現する事を恐れさせるのです。しかし人間よりも素直に感情を表現する妖たちとの交流を通じて、本来身近な人間から学ぶべき他者との信頼関係の築き方を学んでいきます。貴志が友人帳の名前を返し終わる頃には、きっと数多くの友人が出来ている事でしょう。
英語版は北米の翻訳漫画出版社大手の VIZ Media より、現在14巻まで好評発売中です。その後の続巻も日本語のオリジナル版コミックスよりおよそ1年遅れのペースで発刊されるみたいですので、これを機に英語版を買い揃えて英語学習に役立てられてはいかがでしょうか。
またアメリカのAmazonのレビューではこの作品に対して以下のような感想が寄せられています。
Shirley F. Robinson:☆☆☆☆☆
“孫娘へのプレゼントで買いました”私の孫娘がこの作品が大好きで、彼女からメールでこの商品が欲しいと頼まれました。
A. S. Rahne:☆☆☆☆☆
過去と現在に対する責任を果たす事と、他者によってなされたいかに痛みのある選択も努力と良心によって贖う事ができるという事について良く描かれた作品です。
E. A Solinas “ea_solinas”:☆☆☆☆
“名前が書かれたノート”他の漫画やアニメの登場人物にもいるように、夏目貴志は幽霊や物の怪の類が見える少年です。しかし彼の問題は、この繊細にして美しく描かれた夏目友人帳第1巻でより詳しく説明されます。この第1巻は作画がとても愛らしいだけでなく、緑川ゆきの描く怪しげな妖たちで溢れた世界と、彼らのあまりにも人間的な悩みの良い紹介となっています。
一つ目の妖から逃げる途中で、貴志は小さな祠に封印されていた猫の姿をした妖の封印を解いてしまいます。その猫(後にその名がマダラと判明します)が、妖が貴志を追うのは彼が彼の祖母のレイコにそっくりだからと告げます。変わり者と言われていた祖母のレイコは、彼女が倒した妖たちの名前を「友人帳」に封じたので、その結果その友人帳を持つ者はそこに名前が書かれた妖たちを使役する能力を得るのです。
その友人帳は孫である貴志が受け継いだのですが、彼は妖たちを使役する事を望みません。そこで彼は妖たちに名前を返す方法を学び、そして彼は妖たちに名前を返すだけでなく、妖たちから様々な悩み事を相談される事になります。
夏目友人帳は私がこれまで読んだ漫画作品の中でも最もスムーズに作品世界に入りこむ事ができた作品です。それは登場人物とその設定がとてもシンプルだからです。主なキャラは二人だけで、ストーリーは夏目が友人帳に書かれた名前を妖に返すか、そうでなければ妖たちの悩み事を解決してあげるかのどちらかしかありません。
第1巻にはすこしほろ苦いエピソードもあります。貴志の孤独な過去を描くにとどまらず、小さな神やつばめの少女のかなわぬ恋が描かれたりもします。しかしそれ以外の大抵の話はハッピーエンドで終わり、愛と思いやりがいかに人々の心を満たすか描かれています。
作画もまたとても素晴らしいです。最初は少しラフな感じですが、それでも緑川先生はとてもきれいで、繊細な筆致を持っています。風に揺れる草花、花びら、雪の結晶、ふくらんだ衣服、そして奇妙な姿をした妖たち。これらは美しく非日常的な貴志の冒険に彩どりを与えてくれます。
貴志という少年もあなたはすぐに気に入る事でしょう。彼は他人には見えないものが見えるために、これまで疎外されて育ちました。ほとんどの親戚からもひどい扱いを受けてきたにも関わらず、親切心や思いやりを失わず、妖たちを自由にしてやるだけでなく、その事で養父母たちにも心配をかけまいと振る舞います。また猫の姿をした妖、マダラも愛嬌と威厳の両者を持ち合わせたキャラクターで、彼自身友人帳を欲していながら(貴志の死後に譲られる約束となっています)、同時に人間である貴志の事もどんどん好きになっていきます。
夏目友人帳第1巻は、このささやかな漫画作品の素敵な始まりで、妖達があふれる世界での貴志の冒険にあなたはきっとハマる事でしょう。静かに、でも確実に。